20230125

75歳のパワフルなダチがいる。今もバリバリ働いていていつも忙しく過ごしており、夜22時の仕事終わりに遊びに行っても平気で仕事をしていたりする。


ねぇ、たくさん食べるものあるんだけど、少し減らしに来てくれない。

なんて連絡をもらう時は比較的二人とも穏やかな時期で、どちらも多忙を極めていると簡単に会わないまま1ヶ月が過ぎてしまう。

今年になってから一度顔を出しに行こうとしたが、急用でタイミングを逃し、今日まで会い損ねていた。


「ご無沙汰しています。もう仕事終わりました?」

「こっちはまだ事務所にいるけど、あんた今どこにいんの」

「今職場から帰ろうかというところ。会いに行ってもいいですか?」

「久しぶりだね、もちろん」

「やったー、会いたかった」

なんて恋人かのような会話を交わす相思相愛のダチだ。


お邪魔します、こんばんは、と言いながら勝手に玄関から入る。

「今年もよろしくお願いします」

とお互い言い合い、すかさず彼女がIHをつける。

「今美味しいのできてるんだって。食べてかない?」

ツヤツヤのこし餡が砂糖と共に加熱されていた。言いながら彼女は混ぜる腕を休めない。

「あとね、角煮作ってるの。今は下茹でが終わったところ。先に表面を焼いていてね、ほら、油がふっくりぷるぷるなんだから」

酒と水で一度炊くと、酒から出汁がじんわり広がって美味しくなるんだそう。


「ねぇ、今日なにで来たの。車?置いてきた?」

家が近く天気がいい日はたまに歩いてくるのでそんな確認が入ったが、今日は職場から直行しており生憎車だった。

「今日は車」

「なぁんだ! そっかい、喉乾いたと思わない? ビール飲もうよ」

嬉しそうにいたずらな笑みを浮かべた彼女の魅力的な誘いにゴクリと唾を飲む。思わず同意したくなる。頻繁にお茶をする仲だが、実は二人きりで飲んだことはない。忙しい彼女が飲酒することは少なく、滅多にない誘いだった

「…もし飲むなら、車置きに一回帰ろうかな」

「いいじゃん、すぐ行って戻ってきなよ」

「お風呂も入っていい?」

「もちろん、いつでも!」

「ていうかもう一回来るの面倒だから、いっそそこのソファで寝ていこうかな。いいですか?」

「いいよ。じゃあ飲もうか」

とんとん拍子でお泊まり会が始まった。少しの黒ラベルと、出来立ての餡子に焼いたスティック餅をつけ、角煮は粗塩を添え、あっという間に宴会の体制が整った。

「そうだ、りんごも一緒に食べたいんだった」

どれにしようかなと銘柄を悩む声が冷蔵室から聞こえた。ウキウキしているのが目に見えてわかる。

「もう今月も終わっちゃうよ。あっという間だよ」

「会わないまま25日過ぎちゃいましたもんね」

「ほんとよ、お互い忙しくって仕方ないよね」

一緒に食べるから美味しいね、楽しいね、やっぱり会えると嬉しいね、そんな会話を交わし小さな宴会のあとは順番にお風呂へ入った。


彼女は大のお風呂好きで「短い人生楽しまなくちゃと思って湯沸かし器買ったのよ」と自宅風呂を温泉にしてしまう機械を30万近くかけて買っていた。バリキャリで稼ぎがしっかりしている人はお金の使い方が大胆だ。

「今度設置工事するから楽しみにしててね。いつでもお風呂入りにきてね」

以来、誘われて何度かお風呂を借りに行っている。24時間風呂協議会という存在を知ったのもその時だ。そんないかれた名前の真面目な組織があるんだと思うとおかしくて笑える。

実際湯船は気持ちよく、体が断然ほぐれる。こんなお風呂に毎日朝晩入っていたらいつまでも元気で居られるだろうなと思う。


急なお泊まり会が嬉しくて、思わず記録しておきたくなった。

『35歳からの反抗期入門』(碇雪恵著)を読んで、日々を書き続けるのもいいなんて感じたのだ。とても面白くてひと息に読んでしまったのでおすすめです。