金の爪先。

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薄らと積もりたての道を歩く。

足に伝わる感触はまるで”おいり”のように脆く軽い。さくさく。崩すように進む。

 

おいりとは香川県から愛媛県のあたりで作られているカラフルでまんまるなあられだ。

大学時代にしていた巫女のアルバイトのとき、参拝客へのお分けものとしておいりを詰めてお茶セットを作る作業があった。小さくて可愛いそのお菓子は儚く脆い。壊れたものは横に避けておいて、休憩時間にこっそり食べた。

口溶けを思い出し、雪で作る焼き菓子はきっとこんな感じになるんだろうなと想像する。

今思うと食品衛生法とか、大丈夫なのかな。宗教法人は営利目的じゃないから関係ないんだろうか。神社の裏側がかなり適当だというのはあまり知りたくなかった。なんだか神聖じゃない。

 

風が強い。だがぬるい。今日は昨日よりも7度高くなるそうだ。プラス5度とは、北海道の1月下旬だと信じがたい暖かさ。暖冬を実感する。

ただでさえ乾燥しがちな肌から更に湿度を奪い、冷え切った頬を切る如く風。段々とヒリヒリ痛くなる。

積もりたての雪はふわふわなことが多いけど、今の少し表面が硬いおいりのような感触はこの気温ゆえだろう。一度冷えて表面だけが固まって、少し高くなった温度で脆くなっている。ゆっくり朽ちている。

さくさく。楽しい。いくらでも歩きたい。出勤の道でなければ、多分もっと楽しいのだろうけど。

 

この感じだと昼間に全て溶けてしまうだろうな、雪。

デスクに積み重なる書類の山を思い浮かべて、少し苦い顔になる。うーん、でも倒しがいのある。

太陽に駆逐される雪、私に駆逐される書類。同じ昼間を今日生きるね。

そして夜には油揚げがたっぷりのお味噌汁を飲むことにしよう。他の具は茄子と長ねぎ。私は私に優しく生きる。おいりを守ってあげられない。

 

風が不意に優しくなり、ふわりと首をくすぐる。昨日髪の毛を切った。実に6ヶ月ぶりであった。

短くしたので寒いのではないかと思っていたが、杞憂であったことがわかってよかった。昨日の正解を今確かめてニンマリ笑顔になる。うふふ、天才だね。

頭が軽くて気分がいい。今日の書類の山もなんとか健闘できそうだ。直感が大事。今年はそんな生き方をする。

前髪の端っこに金色のメッシュを入れられたら素敵だろうなと思う。とても素敵だが、普通の事務職の私には難しい。せめて爪先だけでも金色に塗ることを決意する。

私の人生、私が生きる。私だけが優しくできる。切り立ての毛先が陽に透けて輝いた。

 

#エッセイ